その友達とは義務教育の頃からの付き合いだ。
気づけば何十年になるのだろう。
今でもたまにLINEが来る。
そして気づけば電話になる。
そんな関係だ。
仕事の愚痴。
昔話。
話題はだいたいそのあたりである。
家族の話や将来の話になることは少ない。
いや、少ないというより、俺があまり持ち出さない。
彼は今を精一杯生きるタイプだ。
明日のことより今日。
数年後より今夜。
そんな人間である。
その日も特別な日ではなかった。
仕事から帰宅し、いつものように晩酌を始めた。
しばらくすると友達からLINEが来た。
他愛もないやり取りをしているうちに、いつもの流れで電話になった。
「話さねーか?」
「わかった。ちょい待ち。」
家族も寝ていたので、俺は車へ移動した。
これから始まるのは、
仕事の愚痴。
昔話。
特に結論の出ない話。
はい。長年にわたる酔っ払い同士の無駄時間消費タイムである。
家の中で話すと声が大きい。
家族も寝ている。
そこで俺は家の敷地内に停めてある車へ移動した。
これは何度かやったことがある方法だ。
エンジンは掛けない。
近所迷惑になるし、少し話すだけのつもりだった。
その日は少し蒸し暑かった。
でも夜だし大丈夫だろう。
そう思っていた。
車に乗り込み、晩酌を続けながら電話をした。
仕事の愚痴。
昔話。
いつもの話である。
何十分だったのか。
何時間だったのか。
もう覚えていない。
ただ、気づけばずいぶん遅い時間になっていた。
明日は休み。
そんな気の緩みもあったのだと思う。
電話を終え、家に戻り、ベッドへ入った。
ところが数時間後だった。
強烈な喉の渇きで目が覚めた。
汗が噴き出している。
冷や汗なのか何なのか分からない。
心臓はバクバクしている。
気持ちも悪い。
足までつり始めた。
正直、少し焦った。
熱中症なんて炎天下の話だと思っていた。
真夏の屋外作業とか。
スポーツとか。
そんなものだと思っていた。
まさか夜中に、自宅で寝ていてこんな状態になるとは思わなかった。
水を飲んだ。
それでもおかしい。
OS-1を飲んだ。
少し落ち着いた。
また横になる。
しばらくすると苦しくなる。
また起きる。
そんなことを何度か繰り返した。
後から考えれば、
飲酒。
蒸し暑い車内。
長電話。
水分不足。
遅い就寝。
思い当たることはいくらでもある。
友人のことを、
「明日のことより今日。」
「数年後より今夜。」
そんな人間だと思っていた。
しかし、その夜の俺はどうだっただろう。
明日は休みだから。
もう少し飲もう。
もう少し話そう。
もう少しだけ。
そうやって、その瞬間の気分だけで動いていた。
どうやら一番「今」しか見えていなかったのは俺の方だったらしい。
友人との会話はあまり覚えていない。
仕事の愚痴だったのか。
昔話だったのか。
きっとその両方だろう。
ただ、あの夜の冷や汗と喉の渇きだけは今でも妙に鮮明に覚えている。
「明日は休みだから」
次からは、その言葉に少しだけ警戒しようと思う。

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