昨日の酒が少し残っていた。
軽い二日酔い。
そんな朝に迎酒を一口。
不思議なもので、
さっきまで重かった頭が少し軽くなる。
麻痺なのか。
錯覚なのか。
それとも本当に復活したのか。
正直よく分からない。
ただ、
「あれ?少し大丈夫かも」
と思ってしまうのだ。
「お前は何をしているんだ」
自分でもそう思う。
本当なら日曜日。
息子と自転車で遊ぶ日だった。
実は前から、
「次の日曜日は自転車で遊ぶか、おじさんのお見舞いのどっちかにしよう」
と軽く約束していた。
そんな中、朝食を食べていると妻がやってきた。
「今日は息子とどう過ごす予定なの?」
たぶん妻は二日酔いに気付いていたと思う。
長年一緒にいるので、その辺は隠せない。
少し考えて、
「兄のお見舞いに行こうと思う」
と答えた。
すると妻は、
「大丈夫なの!?」
と言わんばかりの表情。
そりゃそうだ。
迎酒したばかりの男が、
今から息子を連れて都内へ行くと言い出したのだから。
でも、お見舞いなら電車だ。
運転もしない。
息子との電車旅にもなる。
それも悪くない気がした。
ちなみに兄が入院した理由は、現場仕事中のほんの一瞬の不注意だった。
右手の親指と小指を骨折。
本人もまさか入院になるとは思っていなかっただろう。
気付けば救急車。
気付けば病院。
気付けば入院。
ほんの一瞬で、日常が非日常になることがある。
だからこそ顔を見に行こうと思った。
息子を連れて家を出る。
電車に乗る。
特急に乗り換える。
また地下鉄に乗り換える。
大人にはただの移動でも、
息子には全部がイベントらしい。
そのたびに窓の外を見たり、
次は何に乗るのか聞いてきたりする。
そんなこんなで、ようやく昼頃に病院の最寄駅へ到着した。
息子希望のダブルチーズバーガーセット。
兄にはビッグマックセット。
マックの袋をぶら下げて病室へ向かった。
そして病室に入った瞬間、少しだけ気まずくなった。
兄はちょうど病院食を食べていた。
その目の前にはビッグマックセットを持った弟。
タイミングとしては最悪だった。
それでも兄は笑っていた。
病院食を食べ終えると、マックの袋を持って談話スペースへ移動した。
そこでしばらく雑談。
しかし、
「お子様の面会はなるべくご遠慮ください」
とのことで移動。
今度は病院一階の待ち合わせスペースのような場所で再び雑談を始めた。
すると向こうから声がした。
「おう!遅くなったな」
振り返ると、一人の男性がこちらへ歩いてくる。
連絡では午前中には来る予定だったらしいが、なんらかの都合で遅くなったようだ。
兄の高校時代からの友人、すーさんだった。
親父の葬儀以来だから久しぶりだ。
でも不思議と変わっていなかった。
兄も。
すーさんも。
気付けば話題はタバコと酒。
この手の話になると、だいたい皆同じことを言う。
「本当はやめたいんだよな」
兄は入院してからタバコも酒も止まっている。
正確には止めざるを得ない。
そこで皆が言う。
「今がチャンスだぞ」
兄も、まんざらでもない顔をしている。
そしてすーさんも言う。
「その環境、ちょっと羨ましいな」
たぶん本音だと思う。
数日間、酒もタバコも強制的に遮断される環境。
辞めたい人から見たら確かにチャンスなのかもしれない。
ちなみに俺は十数年前に禁煙だけは成功している。
だから昔話を少しだけ披露した。
でも酒の話になると急に立場が弱くなる。
朝に迎酒している男なので。
気付けば時間も過ぎ、
そろそろ帰る雰囲気になった。
兄に別れを告げる。
すーさんとも別れた。
そして息子と二人で駅へ向かった。
帰りの楽しみは特急だった。
駅で焼き鳥と缶ハイボールを買う。
息子にはジュースとお菓子。
特急券を買い、ホームで待つ。
息子は特急を見るたびに聞く。
「あれ乗れるの?」
「ごめん、それは違う特急なんだ」
また別の特急が来る。
「あれは?」
「それも違う」
そんなやり取りを何回か繰り返した。
そしてようやく目的の特急が到着。
指定席へ座る。
テーブルを出す。
息子はジュースとお菓子。
俺は焼き鳥とハイボール。
その瞬間、ふと思い出した。
特急も、新幹線も、そして何よりブルートレインに乗る時の。
親父の背中だ。
子供の頃、特別な列車に乗る時、親父は駅弁とビール、時には日本酒のワンカップを買っていた。
俺たち子供にはジュースとお菓子。
列車が動き出す頃には親父の小さな宴会が始まる。
窓の外の景色を見ながら飲む酒。
あの姿が妙に楽しそうだった。
気付けば俺も同じことをしていた。
息子から見れば、
「また飲んでる」
くらいかもしれない。
でも俺にとっては、なかなか良い一日だった。
兄の顔も見られた。
久しぶりにすーさんとも会えた。
息子と二人で電車にも乗った。
特急にも乗った。
景色も見た。
そして気付けば最寄り駅。
数時間前に妻から、
「早く帰って来られるなら駅まで迎えに行くよ」
とLINEが入っていた。
でも、お見舞いも話も思った以上に盛り上がった。
気付けば夕方。
駅からは歩いて帰ることにした。
最後まで息子と手を繋ぎながら。
息子よ。
今日は付き合ってくれてありがとう。
そして兄。
その右手が治ったら、また元気な姿で会おう。
兄よ、退院した先もタバコ辞められているといいな。
すーさん、本当に次会った時はタバコ吸ってないの!?
では、お元気で。

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